水を止めたあとも
指先だけが濡れていた
白い布に触れる
その手を見ている
動かしているのは
確かに私なのに
少し遠くから
借りているようだった
名前を呼ぶ声が
部屋を横切る
私に届く前に
少しだけ薄くなる
返事はしない
できないのではなく
まだ
選びたくなかった
袖の下に
細い傷がある
覚えていないのに
懐かしい
痛みはなくて
ただ
雨の降る場所を
身体だけが知っている
鏡を見ないまま
目を閉じた
暗いところなら
同じでいられる
息を吸う
胸の奥で
小さな水音がする
息を止める
それでも
水音だけが続いている
触れないで
まだ
確かめないで
この身体が
私の形を覚えているうちに
呼ばないで
まだ
振り向かせないで
声の向こうにいるものを
私にしないで
手のひらを
胸に重ねる
ひとつ
少し間を空けて
もうひとつ
どちらが鼓動で
どちらが水なのか
分からないまま
朝の光が
床まで来ていた
名前を呼ぶ声が
近くなる
返事をしなくても
こちらを向いている
触れないで
まだ
名前をつけないで
私が私を
忘れるまでは
ここにいて
ここには
入らないで