雨の匂いをまとった朝
まだ眠る街を横切る風
ガラス越し 滲んだ信号が
名前もない色を落としていた
靴底に残る水たまりを
一つ また一つ避けながら
昨日までの足音だけが
少し先を歩いている
息を吸うたび
冷たい鉄の味がした
振り向いた先には
誰もいないのに
影だけが
少し遅れてついてくる
同じ空を見上げているはずなのに
今日は少しだけ遠い
濡れた窓に触れた指先が
知らない温度を覚えている
何も変わっていない街で
変わり始めたのは
きっと
私だけ
朝焼けを切り分ける電車の音
水面は静かに揺れるだけ
通り過ぎる人の肩越しで
もう一人の私が目を逸らす
言葉にすれば
消えてしまいそうで
胸の奥へ
沈めたまま歩いた
雨粒だけが
今日の呼吸を知っていた
いつもと同じ帰り道なのに
景色だけが少し深い
曇るガラスに映る横顔は
まだ私の名前をしている
何も始まっていないはずで
何も終わっていないはずで
それでも
もう昨日には
戻れない気がした